Episode 1-6

JACK 6

今日は、誰か僕の友人の結婚式のようです。
教会です。

しかし、僕は心から親しい友人なんていないと思っています。
皆、幸せそうです。
教会の後ろの方で、僕はぼんやりとそんな結婚式を眺めています。
虚しさがだけが僕を支配しています。

それから今朝も妹と喧嘩をしたようです。
それ以来、今まで隣に座る彼女とは口を聞いていません。
というのも、彼女が結婚したがらないからです。

良さそうな縁談も、みな断ってしまうのです。
彼女は本当に頑固です。

それには彼女の理由がありました。

キャシーは私の妹でしたが、僕に対して、決して明かす事のできない兄妹以上の感情を持っていたのです。
それは彼女が幼い頃からずっとでした。

彼女は自分の率直な気持ちを決して表に出したりはしません。
でも僕は小さい時からその彼女の私に対する愛情は知っていたように思います。

今朝も結婚式に出席するために支度をしている時です。僕は熱いコーヒーをコップに注ぎながら、キャシーと些細な口論になってしまいます。

馬車で家の外で待っていてもなかなか彼女は出てきません。

しびれを切らしているときちんと身支度を整えたキャシーが隣に乗ってきます。

そうして、彼女はそっぽを向いています。

僕は内心はなんとかキャシーに機嫌を直して欲しいと思っていて、気が気ではないのですが同時に私は自分のやり場のない気持ちで、ふてくされています。

キャシーも僕の隣で、教会の後ろの方のベンチに座って花嫁の姿を愛おしそうに眺めています。自分と重ねてそれを愛おしそうに見ていたのかもしれません。

それでいて、隣でふくれて口をきかない僕をどこかわかっていて、少しばかり冷ややかな目で見ているのです。

まったくしょうがないジャックと。

ですから、怒って、口を聞かなかったとしても、その瞬間から、もうそんなことはどうでもよくって、本当は怒っても何にもいないのです。

ツンとしてすましていますが、心は別にそんなんではなくって、苦笑さえしています。

僕はキャシーもお嫁に行って、幸せになって、子供にも囲まれた生活をして欲しいと思っています。

まぁ、彼女がいなくなってしまうのはそれはそれで、寂しくなることには違いないのですが。

けれども、そんな僕を放っててはおけないから、と言って、いつも結婚の話はごまかしてしまいます。美人ですから、言い寄られる機会もあるのにです。

彼らとの将来について考えてみるなんてこともしないのです。

興味がないからです。

僕たちは、戦後、孤児たちを引き取り養子にしたのかもしれません。

キャシーは、先生の資格を取り、教会で子供達に勉強を教えたり、オルガンで歌を歌うのが好きでした。厳しくも、優しい先生だったと思います。

村や、農場の再建には時間がかかった感じがします。

酷く荒廃し、人も沢山死にました。

没落する農場主がたくさんいました。

平穏な生活を取り戻すにはとても時間が掛かりましたが、

そんな中で僕は幸運だったのかもしれません。

あんなに多くの血が流れて、故郷が荒廃したのに、

戦後、なにも変わらなかった。

本当に、何一つ。

かえって酷くなったとさえ思っていました。

こんな世の中のために、ボブたちは死んで行ったのかと、やるせなさでいっぱいでした。

それでも、僕の傍らにはいつもキャシーがいてくれ、心の支えになってくれたのです。

僕だって彼女のことを愛していたのですから。

コットン畑に夕陽がせまり、それが逆光になって、畑の向こうでは、使用人の奴隷の家族が開いたコットンをできるだけ取ろうと急いで摘んでいます。夜露に濡れてしまわないように。そしてその畑の屋敷に続く農道の向こうからまだ幼いボブが(4、5歳?)手を振り僕に気づいて、大きな声で僕の名前呼びながら一所懸命走ってくるのです。

おーい。ジャック!こっちだよー!

それは、全てがキラキラと輝いていて、畑中のコットンの実が弾けて、中の綿がその陽の光にあたって、まるで金の様に輝いているのです。

クリクリの髪の毛、白い歯、宝物でも発見したかのような嬉しそうな笑顔。彼も背中に金色の光を背負ったみたいに、輝いています。

空も、空気も、大地も、砂埃さえも、すべてがです。

彼が死んでから、僕はこの何気なかった小さい時の思い出を生涯とても大切な、そして幸せな宝物のように胸にしまって時折思い出しては涙しました。

僕たちは畑に隠れて、コットンの実が弾けるのをじーっと待って、一気に二つ三つ同時にはじけると、それがなんだか無性におかしくって、二人でゲラゲラと転げ回って笑ったのを思い出します。

いつの頃からだったか。

彼が僕のことを若旦那様と呼ぶようになったのは。

その度ごとに、僕はそんな呼び方をするんじゃない!といって彼を困らせました。

その度に彼は困ったように目をうつむいて、モジモジしてどうしていいかわからなくなってしまうのです。

彼と僕の間には決して、簡単には飛び越えてはいけないような溝が、深く、大きくあったのです。

そういう時代、だったのです。

彼の言葉が胸に焼き付いています。

「奴隷の子は、そんなやわじゃないさ」

僕にとっての彼はいつもサムソンのようだと思っていました。

直接言ったことはなかったかもしれませんが。

真実強い男だと。

僕もそうなりたかったのだと思います。

イェーイ。

ナーイ。

訛りのある言葉が頭に響いています。

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