少し時が過ぎ。
老いたわたしは王様に王宮に呼ばれます。
彼はまだ若い王です。
年は、17歳から18歳。
実にお若い。
聡明なお方です。
そして王は好奇心旺盛なお方。
私が王宮に呼ばれるのは、わたしの冒険のお話を、この若き王にお聞かせするためです。
なにしろ、
王は、わたしの話を聞くのが何より楽しみなのです。
おぼつかなくなった足で、杖をつきながら、
わたしは王の間に続く回廊をゆっくり一人カツカツと歩いています。
「おお!そなたを待ちわびたぞ!」
王はわたしは微笑みます。
「息災であったか。」
「はい。何事も神様の思し召しにございます。」
「そうか、そうか。」
さて、今日はどんなお話が待っていますやら。
王の目はキラキラと輝いておいでです。
そんなふうにして、わたしの物語がひとしきり始まるのです。
私の言葉が枯れることはありません。後から後から私の言葉が湧いて出てくるのです。
まぁ、私のストーリーには幾分の脚色は入りますが、話は面白い方がわたしも楽しいですからね。
その方が良いのです。
若い血気盛んな冒険心溢れるある若い商人が、大海原へと繰り出します。
彼は、誰も知らない見た事もない世界へ冒険に旅立つのです。
ある大陸では魔神が出てきます。
若い商人は魔人の力を借り冒険に旅立ちます。
やがて彼は妖精の国にたどり着きます。
ニンフたちとも彼は楽しい時を過ごすのです。
そんな冒険譚は終わることはありません。
「それから?それからお前はどうしたのだ?」
王はお聞きになります。
「はい。その時は、私がその者に尋ねると・・・」
そんな風に私の話は続きます。
そのうち、王宮内の子供たちも私のところに集まってきます。
みんな、私のお話が聞きたくてワクワクしています。
「ねえ!お話しして。」
彼ら私にお話をはせがみます。
「どれどれ。そうじゃなぁ・・・、どの話にするかのぉ・・・」そんな感じです。
王は、小さい時から見たこともないような海の向こうへ繰り出したわたしが、
羨ましくて仕方がありません。
「余はそなたが羨ましい。余もそんな生き方がしてみたかった。
お前は良い人生だ。それに比べて、余の人生とはなんじゃ。
自由に空を飛ぶ鳥たちのように、王宮から飛び出してしまいたい。
おぬしのようになれぬなら、いっそ鳥にでもなってしまいたい。」
そんなふうに窓の外の景色を眺めたりもします。
余の人生はなんとつまらない人生なのか。
しかし、彼は王です。その強い自覚もあります。
世界を統べる全てを持つ者。誰もが羨む存在。
しかし、本当は、自分のしたいことが何もできない、そんな窮屈な存在なのかもしれません。
ですから、王はわたしがお話をお聞かせしに尋ねていくのをいつも心待ちにしているのです。
それをわたしも分かっているのです。
「いつでも来るが良い。ここは、そなたの家でもあるのだから」
わたしは、王様にお礼をいい、また、元来た回廊を一人歩いて帰ります。
この時は、私にとって、とても満ち足りています。
しかし、もう、それほど何回も尋ねることができないのを知っています。
わたしは、晩年、王宮を度々訪れる、そんな暮らしにとても満足していました。
それは、私が冒険に繰り出した若い時の興奮とはまるで違いますが、本当に平和な日々です。
陽の光も、風も、 穏やかな、時がゆるりと過ぎてゆきます。
「んー。こんな時間の過ごし方も悪くない。うん。悪くない人生だ。」
私はそう思っています。
私が王様や子供たちにお話をしている時は、わたしも本当に私が大海原に船で冒険に繰り出したその当時に戻って、本当にワクワクするような素敵な体験と、発見が沢山ありました。
それは、私にとってまた違う新たな冒険に旅立つような感覚でした。
「ああ、この人生は悪くない。」
私は体中から喜びがあふれてくるのを感じます。
そして、あの時がやってきます。