石造りの小さな部屋で。
この小さな石造りの部屋に来てからは、食事はあまり美味しくありません。
初めの頃は、朝と夜、お昼に出ることもありました。
でも、もう以前のようにお菓子はありませんし、
大好きだったバターがたっぷり入ったピュレもありませんでした。
もちろん、それを望むことがとても贅沢なことだとはわかっています。
最初の頃は、食事のパンとスープは男の人が持ってきてくれました。
そのうち、女の人と、違う男の人が来るようになりました。
男の人は、自分たちのことは「さん」付けで呼ぶように。と言いました。
そして、女の人は、自分達の言いつけをちゃんと守れば、美味しい食事はちゃんと持ってきてあげる。と言いました。
とにかく、言うことを聞くようにと何度も何度も言います。
女の人は、お母様のように装っているのかと思いました。
でも、ボクのお母様とは全然違います。
どこか冷たい感じがするなぁと思いましたが、
ただ、宮廷の侍女のように、身の回りの世話を淡々としてくれました。
最初の日は、本当に二人とも優しい紳士淑女のようだと思いました。
言葉遣いも、他の人と同じように、丁寧な感じがしました。
でも、次の日には、男の人は、ボクが言いつけを守らなかったと何かと言って、
言葉遣いも荒くなりました。
ボクは、何かにつけ怒鳴られるようになり、そして、時折、ボクを酷く折檻しました。
男の人は四六時中部屋にやって来ては、ボクに正しい教育をすると言って、
部屋にいるあいだ中、喋ったり、歌ったりします。
そして、その歌をボクにも歌うようにいいます。
「いいから、歌え。歌うんだ。もっと大きな声で!」
男の人は、気が済むまでそうしました。
男の人は、大体、いつもお酒を飲んで、酷く酔っています。
時々、嫌がるボクにもワインを飲ませました。
「嫌だ、飲みたくない。ボクはそれは好きじゃないんだ」
「なんだと!」
そういうと、男の人は酷くボクを殴りました。
ボクは、気持ちが悪くなって、戻してしまいます。
男の人は、何やってんだこの野郎といって、何度も何度も酷くボクを打ちました。
そして、そういう次の日は、罰として食事はありませんでした。
「お前は、うーんと、ちゃんとした、正しい躾が必要なのさ。本当にどうしようもなく、ひでぇガキだからだ。」
彼はそう言います。
食事は、パンとスープ、あるいはコップの水です。
黒いパンで少し酸っぱい味がします。
正直言うと、あまり美味しくはありません。
バターやクリームはありません。
お父様や、お母様が一緒にいた時の食事とは違います。
ボクは、食事の前にはお祈りをしようとしますが、そうすると、
女の人はそんなことはしなくていいと言います。
それからは食事の前のお祈りをすることはなくなりました。
でもボクは、彼らがいなくなった後、
眠りにつく前に、神様、マリア様にお祈りをしました。
パンは、時々乾燥していて固いです。
そのままでは硬くて、手ではちぎれません。
でも、パンが硬いのはまだいい方です。
しばらくすると、カビが生えていることがありました。
(当時のボクは、それが黴だということは知りませんでした。見たことがなかったからです。)
それまでそんなパンは見たことがありませんでした。
でも、最初にそのまま食べた時、なんだか苦くて、変な味がしました。
それからは、フワフワとしたそれがあるところは、(カビの生えたところ)爪で削いで、
味のしないスープや、コップの水で浸してふやかしてから食べました。
美味しくはありませんが、そうするしかありません。
スープは、玉ねぎか時々豆が少し入っています。
でも味はあまりしません。
スープもない日もあります。
女の人は、野菜や豆は高価でとっても貴重なんだ。といいます。
そのうち、
ボクは、
彼らから、ただ与えられるだけのパンやスープを食べるのが、
とてもいけないことに感じるようになりました。
罪悪感。
というか、うまく言えません。
でも、とても悲しい気持ちです。
ただ与えられるだけ。
なぜ、この部屋にずっといなきゃいけなくて、
なぜ、この部屋から出てはいけないのか。
これがいつまで続くのか。
でもボクは、なんとなくわかっていたのかもしれません。
水は、喉が乾いた時、
戸を叩いて、
水をくださいと大きい声で言うと、別の男の人が持ってきてくれました。
どれくらいたった頃でしょうか、
二人は来ることがなくなりました。
それから、ボクは、体の具合が悪くなり、
だんだん、起きているのがとても辛くなりました。
熱もあって、咳がでて苦しいです。
もう、食べるのも、とても辛くなりました。
食欲もほとんどありません。
でも、食べないと。
涙がとまりません。
時折、自分はお医者様だという人や、看護してくれる人も来ました。
もう、この子はもう治療は無理だろう。
小さい声で話しているのが聞こえてきます。
それから、ボクは、寝台から起き上がれなくなりました。
ある夜、
天の遠くから、光が現れます。
「ああ、イエス様、マリア様。」
光がだんだん強くなります。
なんだか、身体が光に温められ、暖かくなり、
スーッと軽くなります。
痛くもありません。
「お願いです。マリア様。ボク、もう、お父様、お母様のところに連れていって欲しいです。」
すると、気がつくと、
天使様がボクのそばにいました。
天使様は、こう言いました。
「ええ。シャルル。そなたの祈りは聞き届けられました。」
ボクは光になり、
地上を離れました。