Shepherd Boy episode 8

Reflections on Love
愛についての考察

「野にいこう」

久しぶりに訪ねてきた兄さんは少しやつれた感じがしました。

家の近くでボクが羊たちの世話をしていると、
不意に兄はやってきました。

でも声をかけてもらえて、ボクは嬉しく感じています。
兄さんが好きだったからです。

兄さんは十九、二十歳くらい、
ボクは十六、十七歳くらいです。

兄さんはボクたちとは一緒に住んでいません。
兄さんは独立して一人で離れたところ暮らしていました。

でも、時々こうして家に顔を見せにきました。

ボクたちは、家から丘向こうの野に散歩にでます。
ボクはこんな風に兄と連れ立って歩くのが小さい頃から好きでした。
ボクが少し前を歩き、兄さんは二、三歩後ろを歩いています。

風が少し肌寒いです。
もう少しで寒い季節がやってきます。

ボクたちは、羊の毛で編んだ服を着ています。
ボクは生成り地で腕と裾のとこに横縞の飾り模様が入っています。
兄の服は全体に少し茶色が混じっています。
ボクの瞳はとび色で、髪の毛は短く、ウェーブがかかっています。

小さいころは兄とは仲良しでいつも遊んでいました。
でも、いつからか兄は寡黙になっていました。

空は少しうす曇りで灰色っぽく、時々雲の切れ間から太陽が覗きます。

時折他愛もない会話をしながら、
ボクたちは短い枯れ草と乾いた土が、広がる緩やかな丘陵の丘の合間を登っています。



その時、

兄さんは足元にあった少し大きな石で、ボクの後頭部に殴りかかります。

「うああ!」

ボクは激痛がして倒れます。
意識が朦朧とした中、
兄さんは何度も何度もひどくボクの頭や顔を石で打ち付けます。

返り血が兄さんの顔を染めます。

ぐったりとしたボクは、
そして息絶えます。

ボクは肉体を離れます。

ボクは、急いで神様のところに駆け寄ります。

そして兄さんを罰さないように懇願します。
(何故だか焦ってそう思います。)

「どうか、神様。兄さんを罰さないでください。兄さんは混乱しているのです。多分、自分で何をしているのかわからないんです。どうかお願いします!」

兄さんは誰よりも愛されたいと強く思っていることがボクにはわかっていました。
でもいつも意地を張ってしまって自分に素直になれないのです。

なんだか、その兄の姿は、今の自分の様だとボクは感じています。

しかし、その願いが聞き届けられることはありません。

兄さんは泣きながらボクの身体を隠そうとして、土に埋めています。
石と手で、ボクの身体の側の土を掘っています。
兄さんの指先は裂け、爪がめくれ血がひどく滲んでいます。
それでも一心にやっとの思いで身体を埋められる程度に土を返すと、
ボクを抱きかかえる様にして穴に入れ、土を戻します。

ボクはその一部始終を少し上から見ています。

兄さんは小さい声で、何度も私の名前を呼び続けていました。

兄さんはボクのことを愛していたのです。
ただ、そのことはその時兄さんにはわからなかった。
憎しみがどんな感情かも分からないまま、
でもその感情を抑える事はできなかったのです。

「カインよ、自分のしたことが真にわかるまで、
あなたは野を行かなければならない。行きなさい。
そのお前の足で歩むのです。
あなたが人の世で呪いを受けぬように」

神様によって兄さんは、「身印」をつけられます。

しかし、額に刻印されたのではありません。
愛という身印をその身に受けたのです。

神様に愛以外は無いのです。
そう、それはまるで、迷子の子羊を思うように。

兄さんは荒野に行くほかありませんでした。
自分がしたことにいたたまれなかったのです。

兄さんの心は、喪失感と罪悪感で張り裂けそうです。

それから、

しばらく時がたちます。

兄さんが見えます。

ボクが、世話をしていた羊たちを連れて、
どこかに向かって荒れた土地を歩いています。

とても冷たい風です。

兄の髪はひどく乱れ、
あごと、口にごわごわした髭があります。
兄の顔はひどく疲れていて、
彼の顔に深く刻まれた皺があります。

私の兄さんは、その時、こう思っています。

「俺は、弟を愛していた。何故その事に気づかなかったのか」

そして私の兄さんの目にはいつも涙がいつも滲んでいます。

人は自分の心に素直でなければ、一番大切なものを失ってしまう。

自ら壊してしまう。

兄は、そのことを思わない日はありません。

兄さんは神様に呪われたのではありません。

兄自身は、自分で自分を恨んではいましたが。

人は、本当の自分に気づくために、
全ては神様がくださった恩寵の中にいる。
と言う事なのだと思います。

身印とは、忘れ去られないこと。
大きなる神の恩寵が与えられる。
ということなのだと思います。

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